アンコンシャス・バイアス―無意識の偏見― とは何か

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【目次】
男性の方が演奏が上手い? オーケストラで発覚した無意識の思い込み
属性で評価が変わる 同内容の履歴書での「性別」による評価
第一印象は大きい 見た目によってもつ強力なバイアス
血液型や出身地でも 何に対してもバイアスをもつ
子育て中の女性に責任ある仕事はかわいそう 慈悲的差別
幼い頃から感化される 経験と周囲から刷り込まれるバイアス
[個人編]
- 意図しない疎外や差別に発展する 人間関係の悪化
[組織編]
- 特定の属性が優遇される 公平性を阻害する
- 適材適所が阻まれる 採用・人事配置で誤った判断を下す
- 疎外や差別の芽になり得る ハラスメントを生む
[個人編]
- 認める 自分が偏見をもっていると認める
- 自問する 「思い込み」を疑う
- 直感ではなく事実で 根拠をもって判断する
[組織編]
- 社員教育・研修を行う アンコンシャス・バイアス教育の導入
- 履歴書から項目ごと削除する 評価者への不要な情報の排除
アンコンシャス・バイアスとは
近年、ダイバーシティ分野において世界的に注目されているのが、アンコンシャス・バイアスです。
偏見(バイアス)とは
- 偏った見方・考え方
- 客観的な根拠なしに人や集団を判断すること
アンコンシャス・バイアスとは
- 自分自身が気づかずに持つ偏った見方・考え方
英語では、unconscious bias、implicit bias、hidden bias
日本語では、無意識の偏見、アンコンシャス・バイアス、無意識バイアスと呼ばれています。
一般的に人は、自分には良識があり客観的に物事を判断できるので、「偏見(バイアス)を持っていない」と思っています。しかし、脳科学の進展により、人間はみな偏見を持っていることがわかりました。
私達はつねに瞬間的に事実やデータに基づかず、人や集団を判断します。
偏見(バイアス)自体は悪くないのですが、十分な根拠なしに行うため、正しくないことが多々あります。そのため、偏見はさまざま場面での意思決定にゆがみを与え、まちがった判断に導いてしまうのです。
1.どのように問題意識は高まったか
男性の方が演奏が上手い? オーケストラで発覚した無意識の思い込み
とても印象的な、オーケストラの男女比率についてのリサーチをご紹介します。
1970~80年代、米国の音楽学校を卒業した女性の割合は、40%を超えていました。ところが、プロ楽団員のほとんどは男性でした。1970年代における米国の5大オーケストラの女性比率は5%以下。音楽学校卒業の男女割合と、オーケストラの男女割合に、大きな差が出ています。
1970年代から80年代にかけて、このような状況に問題意識をもった米国のオーケストラが、楽団員の採用方法を変えていきました。
その一つとして、「ブラインド・オーディション」が採用されます。
オーディションの際、受験者と審査員の間にスクリーンを置き、受験者が審査員に見られないようにしたのです。審査員は演奏している姿が見えないため、「音」(演奏)のみで評価することになります。
その結果、第一次審査に合格する女性の割合が大幅に向上しました。
スクリーンを取り入れた前後で男女の合格率が大きく変化したことから、「男性を有利に」「女性を不利に」するというアンコンシャス・バイアスの影響が明らかになったのです。
この研究でわかったことが3つあります。
- アンコンシャス・バイアスがあった【存在】
- それは男性を有利に、女性を不利するように機能した【影響】
- スクリーンによってその影響を抑えることができた【対策】
まさにアンコンシャス・バイアスの存在、影響、対策、結果まで示された、大変象徴的な事例です。
【関連記事】
男性に「ゲタをはかせていた」無意識の偏見の正体 | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)
属性で評価が変わる 同内容の履歴書での「性別」による評価
企業でのアンコンシャス・バイアスの影響を確認する代表的な研究では、しばしば履歴書が使われ、「性別」や「人種」などの属性で評価が変わることがわかっています。
【関連記事】
同内容の履歴書で「性別」による評価の例 | 研究から見えてきた…履歴書の「性別」が生む”無意識の偏見” | PHPオンライン衆知|PHP研究所
2.バイアスはあらゆるところに
偏見(バイアス)は、無意識的、意識的にかかわらず、さまざまなところに日常的に存在します。
第一印象は大きい 見た目によってもつ強力なバイアス
私たちは人を見ると、すぐさま外見で判断します。人は見た目で決まるなどと言われるように、相手について何も知らなくても、パッと見た感じでその人について想定し、判断し、自身も判断されます。
- メガネをかけている=真面目
- 服装が派手=目立ちたがり
- 金髪=チャラチャラしている
- 高身長=カリスマ性がある
このように、容姿、着ている服、髪の色、身長、体重、等の外見により、私たちは無意識的に相手への態度や行動を変えます。ほかにも「肩書」などの表面的な情報で推測して、無意識的に相手との距離を調整し、態度や行動を変えることもあります。
第一印象や直感をもつことは問題ないですが、意識しないと外見や表面的な情報だけで人を評価しがちになります。事実にもとづいた情報がわかってから判断した場合とでは、大きく結果が異なることもあります。
人を評価したり、対応するときは、偏見への意識を高め、事実をもとにして判断に根拠を持つように心がけましょう。
血液型や出身地でも 何に対してもバイアスをもつ
また、私たちは、身の回りのどんなことにもバイアスをもちます。例えば、学歴、職業、婚姻状況、方言、乗っている車、身長、体重、血液型や出身地、等々。
「B型は自己中心的だ」、「九州人はお酒が強い」といったイメージを、自分も周囲ももっていたりします。
子育て中の女性に責任ある仕事はかわいそう 慈悲的差別
バイアスはネガティブな気持ちから生まれるものだけではありません。慈悲的な思いから発生するバイアスも存在します。
「子育て中の女性に、出張のある仕事はかわいそうだ」
「女性は機械が苦手だから、男性がやってあげるべきだ」
「障がい者には負荷がかからない簡単な仕事を任せよう」
これは「男性は女性を守るべき」など、女性や障がい者などへの気づかいからくる「慈悲的差別」です。
もちろんその属性がもつ特徴への配慮は必要ですが、誰もがそれを望んでいるわけではありません。子どもを育てながらキャリアを高めたい女性もいます。訓練すれば障がい者もハードな仕事をこなせるようになるのです。
慈悲的差別をされた相手は、過保護な対応をされることにより、実際はやれるにもかかわらず仕事が与えられないため、スキルや知識を身につける機会が失われ、成長できなくなります。
優しさがかえって裏目に出てしまうことを認識しましょう。
【関連記事】
「若者だからITに強い」 という偏見の罪…思い込みが個人をつぶす現実 | PHPオンライン衆知|PHP研究所
3.どうして生じるのか
幼い頃から感化される 経験と周囲から刷り込まれる
私たちは生まれたときから、自分自身や周りの人、物事、そして世界について学び始めます。そしてものの見方やバイアスは、幼い頃から家族、学校、地域や社会の価値観等からインプットされ、時間をかけて身についていきます。
性別を例に見てみましょう。このようなことがしばしば起こりませんか?
- 「男の赤ちゃんはブルーの服」を、「女の赤ちゃんはピンクの服」を着ている
- 求人広告では、「エンジニアの募集には男性」が、「事務の募集には女性」が起用されている
- ドラマでは、「社長は男性」「秘書は女性」が、あるいは「男性の医師」「女性の看護師」が、描かれることが多くある
これらはジェンダー・バイアス(性別に関する偏見)です。
子どもの頃から何気なく観ているCMや広告でも、「仕事をしている父親」「家事が得意な母親」や、「パソコンに強い男性」「おしとやかな女性」といったイメージがついていきます。ドラマでも「職位が高い男性」、それを「サポートする女性」といった設定が多くあります。
このように育った環境やメディア・マスコミでの描かれ方、周囲からの影響や個人的な経験などによってバイアスは形成され、根深く私たちの中に無意識的に刷り込まれていくのです。
4.もたらされる悪影響
バイアス自体は悪いものではありません。バイアスを使わなければ、無限大の情報が溢れる社会に対応できないからです。ただ、しばしば不正確な判断をしてしまうことがあります。
その歪んだ判断によって、個人と組織に及ぼされる影響を見ていきましょう。
[個人編]
- 意図しない疎外や差別に発展する 人間関係の悪化
私たちは人と接するとき、知らず知らずのうちに、相手によって態度や振る舞いを変え、さまざまなメッセージを伝えています。たとえ自分の感じている気持ちを言葉で言わなくても、なにげない表情や言動に表れるのです。例えば- 視線を合わせない
- 言葉数が少ない
- 表情が乏しい
- 距離を置く
- 無視をする
- 軽くあしらう
などは、相手に疎外感や見下した印象を与えます。
偏見をもっている相手に対しては、言動の一つ一つは小さくても、相手が受け取るメッセージは強力なものです。気づかないままに相手に排他的な態度や言動をとってしまうと、意図しない人間関係の悪化を招き、差別に発展してしまう恐れがあります。
[組織編]
- 特定の属性が優遇される 公平性を阻害する
これまでお伝えしたように、アンコンシャス・バイアスが公平性を阻み、ダイバーシティ推進を阻害する要因であることが数多くの研究により証明されています。
多様性を受け入れ、その人のもつ能力をフルに発揮してもらうことで組織の生産性は高まります。しかし実際は、能力が同じでも、性別、年齢、国籍、人種等で評価の格差が生じています。アンコンシャス・バイアスにより、評価が歪み特定の属性が優遇されるため、それ以外の属性の人たちが不利に扱われ、公平性が阻害されてしまうのです。
そのような状態では、全メンバーがもっている能力を最大限に発揮することはできません。また、一つ一つのバイアスの影響は小さくても、それが積み重なって大きな影響を及ぼし、強い立場の人はより強く、弱い立場の人はより弱くなっていくこともわかっています。
- 適材適所を阻む 採用・人事配置で誤った判断を下す
組織においてアンコンシャス・バイアスが最も影響を与えるのは、意思決定や人を評価するとき: 採用、育成、人事配置、昇進等を行う場面です。「女性には、女性ならではの仕事を与えよう」
「規模の大きな案件は男性にしかできない」
「技術者はコミュニケーション能力が低い」
「育児休業を取る男性は、昇進に興味がない」
「若い人でないと、パソコン業務は務まらない」これらの思い込みや決めつけによって能力での公平な判断ができず、適材適所がなされなくなります。
そして個人の本来の能力、本質を見誤ることは、従業員の能力を十分に活用できず、人材を無駄にすることにつながり大きな損失となります。もし十分にパフォーマンスが発揮できていないチームがあったなら、アンコンシャス・バイアスの影響で適材適所になっていない可能性があります。何らかのバイアスがはたらいている可能性を疑ってください。
- 疎外や差別の芽になり得る ハラスメントを生む
意識的なハラスメント行為も多くありますが、なかにはアンコンシャス・バイアスによって無意識のうちにハラスメントを生むこともあります。
バイアスは、思い込みや偏った考えですが、ハラスメントとは嫌がらせやいじめといった、実際に脅威を与えることを指します。つまり、アンコンシャス・バイアスをもち、実際の行動にうつしてしまうと、それはハラスメントに発展してしまう可能性があるのです。たとえ思い込みや考えだけで、行動にはうつさないよう気をつけていたとしても、知らず知らずのうちになにげない言動として表れます。そしてそれらが積み重なり、差別や疎外につながっていくのです。
ハラスメントの芽を摘み取るためにも、そのきっかけとなるアンコンシャス・バイアスに、企業は注意をはらわなくてはなりません。
【関連記事】
「大阪の人ってこう」がビジネスを停滞させる。無意識の偏見をグローバル企業が恐れるわけ。 | ハフポスト NEWS (huffingtonpost.jp)
5.最小限に抑えるには
自分のキャリアや人生、組織の価値に望ましくない影響を及ぼす偏見は、排除したいものです。
しかし人間である以上、偏見をもつことは避けられません。
偏見があるかないかの問題でなく、「自分は何に対してもっているのか」への意識を高めることが大切です。
[個人編]
- 認める 自分が偏見をもっていると認める
まず、自分がバイアスをもっていると認めます。
バイアスをもつこと自体は問題ではありません。誤った判断をし、自分や他人に対し、「不当な結果を生むこと」が良くないのです。
どのような状況では偏見に委ねてよく、どのような状況ではきちんと意識的に考えるべきなのかを判断するために、まず自身にも、誰にでも、バイアスがあることを認めましょう。 - 自問する 「思い込み」を疑う
次に無意識で判断していたことを意識的に考えるようにしましょう。
他人を判断するとき、他人や自分に対して何か思うとき、そこにバイアスはないか、思い込みではないのか、自問するようにしてください。
「この人はこういう人だ」「自分には無理だ」などと思うとき、それは特定の属性や特質によって決めつけてはいないか。一度意識して立ち止まり、偏見ではないのか考えてから判断するようにしましょう。 - 直感ではなく事実で 根拠をもって判断する
どうしてもバイアスをもってしまうときには、直感ではなく、実際にはどうなのか、情報やデータを集め、観察するなどして、事実にもとづいた正しい知識を身につけましょう。
表面的なことによる一瞬の判断ではなく、事実を確認した上で、根拠をもって判断するようにしましょう。その他にも、言葉づかいに気をつけることや、相手を受け入れる言動を取ることが有効です。
【関連記事】
「普通は」「当たり前だ」と口にしたら思い出してほしい“無意識の偏見”の存在 | PHPオンライン衆知|PHP研究所
[組織編]
組織がアンコンシャス・バイアスに取り組む最大の目的は、ダイバーシティ&インクルージョンを実現させるためです。
誰もが機会を均等に与えられ、公平に評価され、受容される環境作りに向けて重要なのは、社員の偏見への意識を高め、行動変革につなげること。
これからアンコンシャス・バイアスの影響を最小限に止めて、ダイバーシティ&インクルージョンを実現させる方法をご紹介します。
- 社員教育・研修を行う アンコンシャス・バイアス教育の導入
まずは経営陣、マネジメント層、チーム内そして社内全体の相互理解が必要です。従業員へアンコンシャス・バイアスの存在を周知させ、教育を行いましょう。
米国では業種を問わず、あらゆる組織でアンコンシャス・バイアス教育が導入されています。弊社も企業や団体で講演、研修やワークショップを行っていますので、お問い合わせください。全従業員向けのEラーニングも提供しています。 - 履歴書から項目ごと削除する 評価者への不要な情報の排除
「オーケストラで発覚した無意識の思い込み」の事例でもわかるように、情報をインプットすることによりバイアスが生じます。評価者は、能力に関係のない情報は持たないことがベストです。
特に日本の履歴書には偏見のもととなる情報が多くあります。職務の評価に不要だと思われる項目をあげました。「写真」「氏名」「性別」「生年月日」「住所」「連絡先」「通勤時間」「扶養家族の有無」「配偶者の有無」、これらの情報は評価者には必要ありません。候補者の持つスキル、職歴、実績等、仕事に関わりのある要素だけが記載されていれば、能力だけで判断することができます。
【関連記事】
日本の履歴書は“偏見”だらけ?見直すべきは「性別欄」だけじゃなかった | ハフポスト NEWS (huffingtonpost.jp)
その他にも海外企業では、「構造化面接(ストラクチャード・インタビュー)」などを実施しています。
6.社会全体で取り組むべきテーマ
長年かけて米国で数多くのリサーチと取り組みが行われているアンコンシャス・バイアスは、その他の国へも広まり、日本でも関心が高まってきています。
海外同様に日本でもアンコンシャス・バイアスへの理解を深め、取り組むことが不可欠な理由は、その存在と影響が社会に広く蔓延しているからです。
例えば指導的立場の女性が極端に少ない理由の一つがここに潜んでいますし、その他の社会課題や差別、疎外、ハラスメントへつながる要因ともなっています。
日常生活でアンコンシャス・バイアスへの気づきを高め、上手に対処する行動を取り、周りの人を受容することで、誰もが気持ちよく、自分らしく働き、活躍できる社会が築かれていきます。
私たち一人一人が小さな行動を積み重ねることで、より幸せな社会へ近づくことへ貢献できるのです。
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